先日、Eテレ「クラシック音楽館」を見ていたら懐かしい風景が飛び込んできました。ベルリン郊外のヴァルトビューネで行われている野外コンサートです。地元では「ピクニックコンサート」とも呼ばれ夏の風物詩として人気のイベントです。何せ“世界のベルリンフィル”が無料で聴けるのですから。今年は、キリル・ペトレンコの指揮、ユジャ・ワンがプロコフィエフのピアノ協奏曲を演奏しました。お馴染みのラヴェル「ボレロ」も演奏され何時にもまして楽しいコサートでした。最後はお馴染み「ベルリンの風」、すっかり日が落ちたすり鉢型の会場では2万人の観衆がペンライトを揺らし、指笛を吹いて、この曲を楽しんでいます。この光景を見ながら15年前のコンサートを思いだしていました。
2009年の6月、元朝日新聞の記者、横山邦彦さんが主宰する「ベルリン・ウィーン10日間の旅」に参加しました。関西空港の待ち合わせカウンターに行って驚きました。当時、私は日本(大阪)センチュリー交響楽団の事務局長として橋下大阪府知事(当時)の“補助金カット”問題と闘っていましたが、音楽家ユニオンのメンバーで応援に来て下さった元オーケストラマンと夫人、センチュリーの定期会員の女性など顔見知りの方が何人も居られ、和気藹々とした雰囲気で旅がスタートしました。
ベルリンでピクニックコンサートを、ドレスデンのゼンパーオーパー(ザクセン州立歌劇場)でオペラ「サロメ」を、ウィーンのフォルクスオーパー(ウィーンで2番目に大きい歌劇場)で、オペレッタ「メリーウィドウ」を観るという楽しいツアーです。
ベルリン滞在3日目の夕方、ホテルを出て、バスで郊外のオリンピック公園に向かいます。日本では中々お目にかかれないような、深い森がすぐ近くにあるのは如何にもヨーロッパ、と感じさせられる風景です。
入り口で簡単な手荷物検査を受けて会場に入ると、見上げるような階段状の客席、日本では街中の公園にあるような簡単な木の長椅子が並んでいます。ヴァルトビューネ(森の舞台)です。ステージを覆う白い大きなテントは、このコンサートを象徴する風景、すぐ前は平土間の芝生席で、観客は座ったり(恐れ多くも?)寝そべったりしてコンサートを聴くのです。
我々ツアーもキオスクでサンドウイッチとビールを買って中段に陣取りました。この年は、イギリスのサイモン・ラトルの指揮、樫本大進がコンサートマスターに内定した年だったと記憶しています。
コンサート途中から予報通り小雨から本降りになって来ましたが、誰も席を立ちません。皆、身を寄せ合い、傘をさしながらベルリンフィルのシーズン最後を飾るコンサートを楽しんでいます。
フィナーレはお馴染み、「ベルリンの風」、オペレッタの中の曲だそうですが、何ともノリの良い行進曲で、観客はペンライトを振り、お決まりの個所で「ヒュ、ヒュ、ヒュ」っと指笛を吹くのです。ウィーンフィル、ニューイヤーコンサートの「ラデツキー行進曲」みたいに定番になっているのですね。良い雰囲気でしたし、こんな曲を持っている国民は実に羨ましい、と思いました。
ゼンパーオーパーの「サロメ」、フォルクスオーパーで観た「メリーウィドウ」とともに長く記憶に残る「ベルリンの風」でした。
出野徹之(KTV)